介護士こじらせ系

Bandcampとユマニチュードが気になる介護職の雑記です。

介護施設の閉鎖を考える

話題として少し沈静化してきた雰囲気がありますが、介護報酬の引き下げが近づいてきています。現状では、うちの施設では特別変わった動きはありません。今回の法改正は単に報酬を下げる事で請求関係のシステムやら金額やらが変わる、というだけでなく、そこで働く職員の給料を上げるというのが一応のお題目です。それだけに、ある程度経営サイドの動きに関わっていても具体的なお金の動きについてはトップがブラックボックスの中で調整するしかないのだろうな、と感じます。ある程度大きな法人であれば幹部クラスでも関われるでしょうが、うちのような小さな施設であれば望むべくもありません。むしろ今回の改正の話題自体がタブーな感じすらあります。

 

こうした改正の流れの中で言われているのが介護における人材難です。


大都市の介護施設、求人難深刻 職員定数割れで閉鎖も:朝日新聞デジタル

 

 当然といえば当然ですよね。その辺は以前僕も記事にしていますし、検索すればいくらでも記事が出てきます。

 

 

取り上げた記事のタイトル後半にある、閉鎖についてちょっと考えてみたいと思います。

 

 

僕は介護士としての職歴が短いので施設の閉鎖を目撃した事はありません。市内に、デイサービスの廃墟を見つけた事はありますが…。介護施設の閉鎖に遭遇した事のある方、あるいは自分の働いている施設が閉鎖した経験のある方ってどの程度いるのでしょうか?

 

 

実際に自分の施設が潰れた、閉鎖したという記事を探すとすぐには出てこなくて、例えばこちら。


デイサービス閉鎖|ちっちまにっき

 

こんな記事が出てきます。あるいは、

オリオンさん♪:デイサービス閉鎖って。

 

だとか、


デイサービス閉鎖 - 本日の介護回想録、時々自分日記

こうして切実に心情を語られている記事や、

 

デイサービスがつぶれる時代: 猫のひとりごと

 

こんな記事も。

 

 

 

自分の親が利用している施設だとか、ケアマネとして関わっている施設、あるいは働いている施設まで、それぞれの見方をみる事が出来ます。当然といえば当然なのかもしれませんが、経営サイドからの見方での施設閉鎖の記事は殆ど出てきません。出てきても、閉鎖のお知らせと通り一遍の謝罪の言葉のみ。引用はしませんが。

 

 

施設に関わる様々な人の視点から閉鎖について見ていくと、

 

①職員の場合

・実作業への影響

→なくなると分かっていながらも現場で利用者にその事を悟られないよう取り繕いながら働かなければなりません。取り上げた記事にもありますが、イベント事で「来年も楽しみにしているから」なんて言われながら実行する気持ちを考えると辛いものがあります。また閉鎖の形によっては普段出入りしないような人が施設に出入りする事があるなど、通常では起こり得ない状況が起こる為、そうした面での利用者への影響を抑える事も必要でしょう。自分の動揺を抑えながら。

 

・次の職場を考える

→ある程度優秀なスタッフであれば、ケアマネの紹介など通常の転職活動とは違った形での転職も可能なようですが、大抵は簡単ではないでしょう。この辺で難しいのは、一刻も早く自分の身の振り方を考えるのか、最後まで利用者の側にたって介護を行うのか、です。悪い表現をするのであれば、いつまで泥舟に乗っているのか、という話です。介護の求人自体はないわけではないと思うので、転職自体は他の業種に比べれば難しいとは言い難いでしょう。また、一刻も早く次の施設の利用者に馴染みたいと考えるのも間違いではありません。

また、転職という行為自体エネルギーのいる事です。利用者はもちろんですが、新しい人間関係の構築も必要になりますから、そうした意味で新たなストレスが起きるのは必至です。

 

②利用者、その家族

・利用者への影響

慣れ親しんだ場所で、慣れた人に囲まれて過ごす事がどれだけ安心感に繋がる事か。施設の閉鎖は、そうした利用者の安息を奪う事に直結します。もちろん良い影響が起こる可能性も否定は出来ませんが、悪影響が起こる可能性の方が高いでしょう。潰れかかった施設から移る事は一見サービスの向上が望めるように見えますが、人間の相性もあるでしょうから、サービスや設備が行き届いている事が利用者の為になるとは考え難いです。

 

・家族への影響

→何より新しい施設を見つける事が最優先になります。当たり前の事ですが、介護施設は、買い物する場所を変えるといった安易な変化とはわけが違います。どれだけ利用者に合う施設なのかを一から調べる必要があります。当然本人への説明なども含めて余計な労力とストレスが発生しますし、新しいスタッフに対して利用者の症状を伝えたり、信頼関係を築いたり、要望を伝えたりと事務的な作業もやり直しです。煩雑ですよね。

 

 

③ケアマネへの影響

・施設を見つける労力

→利用者家族と同様ですが、新しく利用者にマッチする施設を見つける必要があります。というか基本的に利用者やその家族の同意のもと、利用者にとって最適だろうと考える施設を利用してもらっているわけで、そこがなくなるというわけですから、施設を探すにあたってはその辺の基準の再設定も必要になるかもしれません。利用者の望む条件に合う施設があったとしても、加算の基準などの認識の違いがあったりすれば利用金額に影響があったりもするでしょう。

またケアマネの場合は、そうした作業を複数の利用者に対して行わなければならない可能性もあります。

 

 

付け加えるのであれば、通所の場合ならともかく、入所施設の場合は安易に次を見つける、というわけにはいきません。特養など、時には順番待ちが当たり前の状態の中に無理やり入り込ませる必要すら出てきます。一度入所した利用者を在宅に、というのは簡単ではありませんし、緊急の事態とはいえ、割り込みさせてしまう、というのも待機している人を考えると何とも言えない気持ちになります。

 

 

 

パッと思いつく限りではこんなところですが、僕の浅い経験と見識からです、おそらくもっと煩雑な自体が起こる事は十分考えられます。

 

 

 

国は今回の改定でおそらく、小規模施設についてはその増加を止めたい、あるいは減らしたいという考えをもっているのかもしれません。増加の抑制はともかく、利用者がいる施設をなくしていく事は決して小さくない影響があります。

正直者が馬鹿を見るではいけない、と以前も僕は書いてきましたが、利用者第一で経営している施設が煽りを受けて閉鎖せざる状況に追い込まれるのだけは見たくないな、と強く思います。

 

内部留保について随分と言及されます。確かに、一部で言われるように経営者が高級車を乗り回している、なんて施設もあるとは思います。ですが、そうした安易なステレオタイプに視線がいくのは恐ろしい事です。個人の貯金の話に置き換えて考えれば分かりやすいですが、もしもの事態に備えるのは重要です。第一、人の命を預かっている以上、そのもしもが人命に関するものである可能性は他業種に比べれば高く、それによって、そのもしもの事態の時に掛かるお金というのが大きくなる可能性も高くなるわけです。変な話、儲けられる時に儲けておかないと怖いと思います。

 

 

 

贅肉を削ぎ落とす必要は常にありますが、方法を間違えて必要な筋肉まで落としてしまっていざという時に躍動出来なくては何の意味もありません。介護が筋力低下で弱々しくなるのだけは避けなければならないと思うのです。