介護士こじらせ系

Bandcampとユマニチュードが気になる介護職の雑記です。

100歳を迎えた受刑者を諸手を上げて賞賛出来るか

桂米朝さんが亡くなったというニュースは、興味があるとはいえ詳しいだなんてとてもじゃないけど言えやしない僕にも十分響く程に大きなニュースでした。流石に名前は知っていますからね。

生前の映像が映るたびに、なんて良い顔をされているんだろうと強く思わされました。微笑みがそのまま素の表情かのような。もしかしたらそれはあくまで対外的なもの、という事なのかもしれませんが、それにしたっていつまでも保つ事が出来るだなんて凄いものです。

 

色んな大御所と呼ばれる人たちがコメントを出していて、歌丸さんなんかは76歳の今でも稽古を付けて欲しかったと言っていて、学び続ける姿勢の大事さを改めて感じさせてくれました。あの歳になっても、あのポジションにたどり着いても、まだまだ先にいきたいのだなと。凄いものです。

 

 

よく流れていて印象的だったのが、ざこばさんの「綺麗な死に方だった」という会見の映像です。人柄通りだとか、そういった抽象的な物言いはしませんが、最期を穏やかに迎えられたというのは素晴らしい事でしょう。殆ど存じ上げませんが、まずは御冥福をお祈り致します。

 

 

ただふと、綺麗な死に方、というのが妙に引っかかっています。その言葉とはおおよそ正反対のこんな記事があったからです。

honz.jp

 

 

実に毒々しいタイトルではありますが、中身もなかなかのもので、

本書によると警察庁発表の犯罪統計では高齢者による万引きは2011年には未成年者の検挙数を追い抜き、直近の公表値である13年は32.7%を占め過去最高を記録したという。万引き犯の3人にひとりが65歳以上という状況だ。人口全体が高齢化していることを踏まえても異常な増え方だ

万引きだけではない。ストーカーも60代以上の13年度の認知件数が10年前の約4倍に増え、他の世代の1.7-2.6倍に比べて高い増加率を示す。驚くべきなのは暴行の検挙数。2013年には94年比45倍超の3048人に急増している。原因も「激情・憤怒」が60%以上を占め、次点の「飲酒による酩酊」の14%を大きく引き離す。酔っぱらって、「何だ、この野郎!」と酒場で暴れる老人を想像しがちだが、本当に凶暴なのは素面なのに公共交通機関などで些細なことにぶち切れまくる老人が大多数なのだ。

とあったり、

「唯一の憂さ晴らし」と5年前に突如目覚めた万引きをやめられない86歳の女性。毎日のように69歳の女性に自分が詠んだ句を添えて郵便ポストに手紙を差し入れる80歳男性。68歳の女性は色目をつかって、孤独な男性たちの預貯金から3000万円以上を搾り取る。
 
寂しいから、社会から孤立してしまっているから。犯罪白書は老人の犯罪を語る。確かに孤立死も急増している。80歳以上の自殺者数は年2500人を上回る。
 
なぜ寂しいのか。なぜ孤立してしまうのか。簡単には死ねない時代になったからである。

とまあ、こんな具合です。これだけを表面的に捉えれば、晩節を汚しているという表現になるでしょうか。ですが当然ながら、こんな単純なものではないですし、一部の人の問題であるとも考えるのは間違いでしょう。

 

 

簡単に死ねない、という表現が出てきます。人間、あっさりと死んでしまうものでもありますが、同時になかなか簡単には死なないものでもあります。

 

 

うちのような認知症の高齢者の方々や寝たきりの方々はともかくとして、介護サービスを利用しないような人たちは大まかに言って体が健康であると言っても良いでしょう。勿論少なくない例外はありますが。ただ、体が健康という事と精神が健康であるという事は丸っきり別問題であるはずなのに、おそらく今の社会であってもそこが同一視されているような気がします。刑務所の中で100歳を迎えた受刑者がいたとしたら、一般の人と同様に表彰されるのでしょうか?また報道されたりするのでしょうか?表彰はともかく、注目されるような事はおそらくないでしょう。健康である、という事が体と精神で分かれていない事の証左でもあります。

悟りの境地に達した老人は漫画の世界だけなのだろうか。

 

こんな一文があります。その通り漫画だけです。こういう一文を読んでしまうと、未だに全ての高齢者は健康であれば仙人のように穏やかになっていくものだと考える人がいるのかと疑ってしまいます。そんな事はない、と思いたいのですが。

 

 

何れにしても、体の健康と精神の健康をしっかり分けて考えなければこの記事で紹介されているような本に出てくる、ストーカーや詐欺を行う高齢者の問題は解決し得ないでしょう。体の健康についてはあまりにも多く語られていますが、精神面の健康は孤独死のような問題が出てきてようやくスポットライトが当てられたばかりですから。

 

 

介護の文脈において、地域のコミュニティー創設など、孤独にしない、させない事を目指す動きが出てきています。精神の健康を害さない、という観点に立てば、立派な介護予防の一つになるはずです。晩節を汚さず、綺麗な死に方を少しでも増やしていく為にも、身体機能だけでない介護の役割を考えていきたいものです。