介護士こじらせ系

Bandcampとユマニチュードが気になる介護職の雑記です。

介護報酬の引き下げ、価格競争とサービスの質。

いやあ、ついにきましたね。


介護報酬、2.27%のマイナス改定で決着- 処遇改善加算を1.2万円上積み | 医療介護CBニュース

 

やはり報酬は下がるそう。一方、介護職員処遇改善加算には上乗せで月当たり1万2000円だそうですが、果たしてこれがどの程度の施設で介護職員の給料に加えられる事になるのでしょうか。うちですか?うちは当然のごとく増える事はないでしょう。現状の加算ですら何一つ反映されていないんですから。

老健が集会を開いて緊急宣言を採択、なんてニュースもありました。もっともこうした取り組みは本来平時から行っているべきであって、引き下げが現実的になってきたから、さあやらねば、なんて重い腰を上げるような反応の遅さでは何の効果ももたないでしょう。仮に僕が知らないだけで、普段から動いていたとしても、表立った動きとして出てきていないのであればやはり動いていないと同じです。ご苦労様です。これを次に活かしていただきたい。

 

 

さて、誰一人として自分の報酬が上がる事を期待していない今回の改定ですが、根拠の一つとして財務省が掲げているのが「価格競争がなされていない」という事です。こんな記事もありました。


財務省が提案した価格競争。介護サービスの価格競争には賛成ですか?反対ですか?|みんなの介護ニュース

 

難しいところです。価格はさておき、競争というのは確かになくてはならない概念であると言えます。競争に負けて消えていくプレーヤーが出るのはどんな業界でも同じなので、介護に限って例外に、というわけにはいかないでしょう。また適正に競争が行われれば、より質を高められる可能性があります。提供出来るサービスの幅、一人一人のスタッフの質、設備の充実などなど。競争の中でそれらが切磋琢磨され、それぞれの施設が向上していく事も重要です。もちろん、そこには価格という要素も入り込んでくるでしょう。

 

 

財務省が価格競争と言っているのは、かなり大雑把に言ってしまえば財務省が日本のお金を扱う省庁だからであって、具体的なサービスなどは専門外であるからです。そして周知の通り、社会保障費が増加の一歩を辿る今だからこそ、それを何としても抑制しなくてはならない。そんな彼らにとっての経営の努力とは、サービスの質を向上する事でも利用者を増やしていく事でもなく、コスト削減を指すのでしょう。今回の改定は、これから儲けたけりゃ値段で勝負して、削れるもん削って利益出せよ、という事になります。

 

 

じゃあ経営側からしたら価格競争はどうなのか。

 

 

誰だって経営者である以上、儲けたいに決まってるんですよ。それが一番の目的かは別として。儲けた資金でより自分の施設のサービスを良くしたいと考える人もいれば、私腹を肥やしたいと考える人もいるでしょう。その辺は、自分でリスクを負って起業しているわけだから自由といえば自由です。

儲けをどうやって生み出すか、つまり利益をどう生み出すかというと、まあ今更言うまでもないですが、基本的には売値と原価の差額から出すわけです。で、そこから先ですが、大まかに言うとその差額を少しでも大きくする、つまり利幅を大きくするという方法と、薄利多売、一つ当たりの差額は小さくとも、量を売る事で利益を積み重ねるという方法の二つに分かれます。基本中の基本ですね。

 

介護に関して言うのであれば、基本的に介護保険によって価格は上限は決まっているので(下げる事は出来るようです。知らなかった。)、単純に単価を上げて利幅を広げるというのは基本的に不可能です。(保険外のサービスは無視)

なので、先の二つの例で言えば、前者については、通所施設であれば一人の利用者の利用日数を増やしたり、リハビリやら入浴やらを保険の範囲内で出来る限りつけていく事を指します。

後者については、一人当たりの利用日数は少なくともその分利用者の人数を増やす、という形になるでしょうか。

 

 

でも両者とも、無理があるんですよ。

一人にいくらサービスを提供しても上限がある以上、利益はある程度のところで上げ止まりがあります。薄利多売の方法にしたって、そもそも社会保障費を抑えたい意向があるわけですから、高齢者を新しく介護認定してもらう、という事は少ないに越した事はないわけです。おそらくこれから認定のハードルは上がるでしょう。そうなれば、薄利多売の方法は今あるマスの取り合い、あるいは痛み分け、つまり均等に回数を振り分ける、といった形になりかねません。

もっと言えば、在宅での介護の方向性を打ち出している以上、福祉用具の貸与だとか、訪問看護、介護の比重が増えれば、施設に回す介護点数はさらに下がります。一人に提供出来るサービスもこれで減る可能性が上がります。

 

経営者としては、利幅を上乗せするには割と早々と限界が見えてしまうわけです。

 

この辺まで理解しているからこそ、財務省は価格競争を促すのでしょう。つまり利幅を増やしたいのなら、コスト削減によって原価を下げろ、と。

 

 

コストを手っ取り早く下げる一番の方法は良し悪しはともかくとして、人件費の削減でしょう。ですがそもそも、介護においては現場のスタッフが利益を生み出すわけではなく、あるいは生み出す額が小さいが故に給与が低めに設定されてしまいます。営業職のように頑張った分だけ、という成果制度にする事は不可能で、出来るとすれば新規の利用者を紹介する、とかくらいですかね。

何れにしてもいわゆる経営の三要素であるヒト・モノ・カネのうち、介護ではヒトに対するコストがデフォルトで低くなっているわけです。削りようがないんです。

サービス残業が多いのもこの辺が原因です。もらえる額が決まってるのに時間以上働いても払えないだろ、みたいな。

 

じゃあどうするか。モノを削るしかなくなりますよね。物凄く細かいところまで神経を使ってモノを削っていくようになるでしょう。節電、送迎車の燃料代の節約、備品の消耗を細かくチェックして、はたまた備品の質を下げて、利用者への昼食の質が下がって、おやつが安くなって、消耗品はいつになったら交換してもらえるのか分からず。そんなところでしょう。あからさまなサービス低下です。

 

 

先の記事にもありますが、財務省は「サービスの質は確保しつつ」と価格競争に対して但し書きを添えています。でもこうして見てくると、無理だろ、としか感じません。

 

こんな記事もあります。


介護報酬引下げ 〜 「介護の質・量」の低下は許容すべし - 夕刊アメーバニュース

 

介護における価格競争、僕には到底無理としか思えなかったので、反対です。頭の固さと勉強不足かもしれません。むしろそうであって欲しいもんです。ウダウダ理屈こねてんじゃねえバーカと道筋を示してくれるような人がいて欲しい。

 

 

まあでもこんな状態ですからね、今介護で働いている一人一人の働きがほぼそのままサービスの質の向上につながるわけで、自分の働きっぷりを磨く事が何より重要になるわけです。問題山積みなら、それだけテコ入れしなければならない状況にまたなってくるかもしれません。そんな時に、やっぱこんな奴らだから、なんて言われちゃうような介護職になるのだけは止めましょうよ。現場は粛々と、文句だけはいっぱしに垂らしつつもやる事はプロとしてピシッとやらねば、と思うのです。