介護士こじらせ系

Bandcampとユマニチュードが気になる介護職の雑記です。

福祉が少しでも福祉の枠組みからはみ出ていくように。

今僕が毎回買う雑誌というと以前取り上げた事のあるSPECTATORと、もう一つはPOPEYEです。10日が発売日で、早速買って読んでいるといくつかコラム連載で終わるものがあるそうで、その中に坂口恭平氏のコラム「ズームイン服!」も含まれていました。

POPEYE(ポパイ) 2015年 02 月号 [雑誌]

POPEYE(ポパイ) 2015年 02 月号 [雑誌]

 

 

服飾に関連したコラムを、という事でスタートしながらも段々と脱線していき、独自の行き方をする人を取り上げる事が多くなっていったのですが、それはそれで、というかむしろその方が面白かったので毎回読み応えがありました。

で、最終回なんですが、取り上げられていたのは鹿児島県知的障害者施設「しょうぶ学園」の施設長である福森伸さんでした。僕は恥ずかしながら初めて知った方ですが、2013年にはこのしょうぶ園、グッドデザイン賞を受賞しているという事で、福祉の業界の人ならもしかしたら知ってる人はいるのかもしれません。

SHOBU(しょうぶ学園)_NEWS最新情報


しょうぶ学園の新しい福祉デザイン [SHOBU STYLE] | 受賞対象一覧 | Good Design Award

 

コラムでは福森さんが両親の設立したしょうぶ園に非常勤として働くまでの簡単な経緯やバックボーンを紹介しつつ、保護主義的に運営されていた事に違和感を感じた福森さんがしょうぶ園を変えていくプロセスを辿っています。

 

福森さんは、福祉には素人だからいきなり手出しは出来ないという事で、自分が担当する木工工房での作業に注目し、出来ない利用者が出来るようにする方法から、ただ木とノミを渡して自由に創作してもらう方法に変えたそうです。怪我の心配もしたそうですが、誰も怪我をする事はなく、そうして利用者が作り続けた作品は公募展で次々に入選を果たします。世間一般の評価をもとにして、職員にそうした方法、つまり利用者が自由に自分の精神の赴くままに創作出来る方法が出来るように職員を教育していったそうです。

 

その後に続くコラムの文章を引用すると、

利用者の行動は一見、無目的に見える。だからこそ、健常者はつい自分の視点から見通しを良くしてあげようと一生懸命になってしまう。しかし、福森さんは創作する利用者で無目的な人は誰もいないと感じている。ただ彼らの目的や目標が言語化できるような種類のものではないだけなのだ、と。「言語化できない感覚と触れるために、コミュニケーションを取るために、健常者の世界に引っぱりだすのではなく、むしろ彼らの世界のドアを開くための方法を、想像力を使って磨く」。このような違う現実を持ち得る人間どうしの対話を実現する行為。これこそが創造だと僕は思う。福森さんはその意味で芸術家だと僕は感じた。

 

とあります。職員の考える、健常者の常識を当てはめずに障害者の世界に入っていく事で彼らの可能性をより引き出したというわけです。先に挙げたグッドデザイン賞でも利用者の作り出す作品への評価について言及されていて、

審査委員の評価
障害を持つ人たちのライフサポートセンター「しょうぶ学園」が生み出すクラフト、アート、パフォーマンスは、一般の人も興奮させる芸術的にも質の高いものである。人が人らしく生きるための創造力を引き出す学園独自のオリジナルのプログラムやマネジメントは、デザインという創造的教育の場にも活かされるべき価値のあるものとして評価した。自律することに障壁が多く、自らの立ち位置に悩む人が多くあらわれる現代社会において、学園が持つ専門性の高いマネジメント技術は魅力的である。
担当審査委員| 中谷 日出 (ユニット長) 池村 明生 林 千晶 吉田 順一

 

と講評されています。その人らしさ、というのは昨今様々な場面で言われている事で、それをかなり早い段階で気付いて実践出来ているというのはコラムでもある通り、福森さんが自由に育ったバックボーンと、違和感をしっかり感じ取り、そして変化へと繋げる事が出来る人だからでしょう。

今回のコラムは、福祉の業界の端くれにいる人間として興味深く読み事が出来るものでした。

 

 

 

なぜブログで取り上げたかというと内容に感銘を受けたのはもちろんですが、一番はPOPEYEというファッション雑誌の中で、カルチャーや芸術の文脈から坂口恭平という福祉の世界の外にいる人が知的障害者施設について取り上げたからです。

 

以前記事にしましたが、テレビで芸能人が自分の介護体験などについて語るのは良い事だと思っています。それは、その知名度ゆえに、例えば僕なんかが同じ事を語るより遥かに影響力があるからです。そうやって介護体験なんかが広がっていく事で、自分の問題として認識してもらえる可能性が高くなるでしょうから。

 

今回のPOPEYEのコラムについても同様です。若い男性に訴求する雑誌において、福祉について取り上げられるというのは大きな事だと思います。少なくない人がこのコラムを読むでしょうし、深く関心が向けられなかったとしても、少なくともまた福祉の事が書かれてるなーくらいには感じると思います。僕は、少しでもそうした福祉に関するメディアに接する機会が増える事で、福祉の世界が自分の身近な問題である、と少しでも多くの人が感じて欲しいと思っています。

 

福祉は大きな問題であるからこそ、福祉の枠から少しでもはみ出して行って欲しいものです。このコラムが今回で最終回なのは非常に残念ですが、坂口恭平氏がまた違った媒体で福祉についての記事や文章を発表してくれる事に期待しています。もちろん彼だけでなく介護などに関わる事のある有名人にも。