介護士こじらせ系

Bandcampとユマニチュードが気になる介護職の雑記です。

観光×介護?と甘く考えてたらちょっと違うかも?と思った介護移住。

前々からずーーーーっと楽しみにしていたブラタモリの放送が今日で、サービス残業するくらいあった仕事も残して帰宅して夕飯作って、今か今かとテレビの前で待ち構え始めたのが30分前の7時半。随分と気が早いもんだったのだけども、その30分でやっていたのがクローズアップ現代の地方活性化にまつわる特集でした。これもこれでなかなか興味深い内容で、有意義に30分待つ事が出来ました。

 

最近の若者が地方に移住してそこを拠点として活動する、というのは結構広がっています。確かに今時無理に都会にいなくてもインターネットさえあれば情報はある程度都会と同じ水準で手に入れられるし、何より移住する人は情報の受け取り側ではなくて発信側なので、情報格差なんて感じる必要がないんですよね。都会にしろ地方にしろそれぞれそれなりのメリットデメリットがあるので、どちらか片一方を絶賛するって事はないですが。

 

 

さて高齢者、要介護者の話ですが、地方自治体が連携して地方に特養を設立する、なんて記事が。冒頭の話は若者の移住でしたが、高齢者が地方に移住する、という話です。


東京都杉並区が静岡県の南伊豆町に特別養護老人ホームを建設。大都市圏と観光地が初めての連携|みんなの介護ニュース

 

都市部の自治体と観光地と連携して特養を作る。なかなかに興味深い内容です。先月決まっていた事なんですね。気付くのが少し遅かった…。

 

記事を引用すれば、

伊豆半島の最南端に位置する南伊豆町高齢化が進行しており、今まで主力だった観光産業が低迷しているという現状があります。東京都杉並区の特別養護老人ホームが完成すれば、遠方から家族や親戚、友人の訪問などが期待できるほか、新たな雇用が見込まれるとのこと。

うーん。こうやって書かれると何だか出来すぎた話のように見えてしまいます。

 

 

どうなんだろう、と思って少し検索してみると、この記事だけでは分からない部分が少し見えてきます。

 

 

まず杉並区の広報のリリースから。

http://www2.city.suginami.tokyo.jp/library/file/261211minamiizutokuyoukyouteiteiketu.pdf

http://www2.city.suginami.tokyo.jp/library/file/261211minamiizutokuyoukyouteiteiketu.pdf

 

ここから分かるのは、杉並区と南伊豆町がこの連携の為だけの関係性ではなかった、という事が挙げられます。昭和49年の区立南伊豆健康学園の創立以来の関係である、という事になります。

 

もう少し資料を出してみます。

http://www.mri.co.jp/project_related/syakaifukushi/uploadfiles/syakaihukusi_hlu02.pdf

http://www.mri.co.jp/project_related/syakaifukushi/uploadfiles/syakaihukusi_hlu02.pdf

 

「高齢者居住を中心とした自治体間連携に関する調査事業の概要」です。こちらでは先の杉並区と南伊豆町も調査対象とされています。

都市部を「送り出し希望地域」、地方自治体を「受け入れ希望地域」としてそれぞれに調査をしているものです。両者の基本的なニーズが冒頭で取り上げた記事の通りなわけです。つまり、「送り出し希望地域」は介護サービスの提供不足、「受け入れ希望地域」は受け入れによる地域活性化(観光産業の復興、介護従事者の雇用創造)です。ここを基にして調査が進められて行っています。

細かく様々なシチュエーションを想定して検討されており、介護の地域移住に関してはまず概要として理解出来るのでは?と思います。

ここで挙げられている課題を抜粋すると、

自治体間の連携による高齢者移住の課題

  高齢者移住の課題としては、次の4点があげられる。

その1)送り出し側と受け入れ側の需給ギャップ

○受け入れ希望地域は送り出し希望地域の 3 倍以上。また、送り出しが想定する移住規模 は受け入れ側のそれと比べて小さい。

その2)住民を送り出す理由の説明しづらさ

○自治体が地域住民の域外への転居を後押しすることに関し対外的な説明が難しく、積極 的に推進しにくい傾向がみられる。

その3)長期的な対応課題の潜在化

○今後 10~20 年のスパンで見れば深刻な社会問題(要介護者の急増による介護サービス供 給の絶対的不足、少子化や人口減少による地域経済の縮小等)でも、数年先には顕在化し ていないため、対応に遅れが生じる。

その4)域外への住み替えニーズの把握不足

○地域住民の他地域への転出意向や他地域の介護施設への入所意向を自治体が十分に把握 していない可能性がある。

 

その前にはこんな資料も作られています。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000018337.pdf

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000018337.pdf

 

 

なんてここまで書いていたら、既に一昨年の段階でクローズアップ現代で特集されていたんですね。


安住の地はどこに - NHK クローズアップ現代

 

長い資料を読むのが鬱陶しいのであればこちらでも十分大丈夫かと。ここで挙げられている課題を抜粋すれば、

高齢者が大きく環境が変わったときに、認知症が進行したり、うつ症状が出てしまう、これ、リロケーションダメージと言いますけれども、それが危ぶまれるわけですね。
しかも、それがやっぱり、ご当人の意向といっても、その意向というのは、やっぱり家族の状況を鑑みて、お年寄りは空気を読んで、「行きます」というふうに言ってしまうのかもしれない。

とあります。

 

 

 

 

ここまできて考えなくてはならないのは、結局のところ誰の為の介護なのか、という事です。

 

都市部の自治体の目線からいけば、待機高齢者が相当数いる中でいつまでも待たせられない、という考え方があります。かといって新しく自治体内に建設するには費用がかかりすぎる。じゃあ地方の受け入れに理解のある場所なら、費用は抑えられるだろうから建設は出来るだろう、という事ですね。

その考え方のベースにあるのは、在宅での介護が難しい、と考える家族の存在です。まして近年介護殺人なんてものまで発生しているわけですから、呑気に構えてもいられないでしょう。

悲しい事に、高齢者本人に考えがいくまでに、周囲が疲弊しきっているのが介護の現状なのかもしれません。

 

多分正解はないでしょう。色々な考え方があると思う。

 

僕は、こうした介護移住はこれからもっとニーズが増えていくものだろうと思っています。杉並区と南伊豆町の決定は支持します。悲しいけれど、高齢者の為だけに様々な形で介護するには周囲の負担が大きくなり過ぎています。応えたいけど応え切れないという。そこのスタッフの働きぶりによるから確約は出来ないけれど、熱心に介護してくれるスタッフに囲まれながら、家族も疲弊せず、穏やかな余生を送るのも人生の終わりの形としては一つの幸せなのかもしれません。

 

先に挙げたように様々な課題がある介護移住ですが、それでも進めなければならない理由は十分にあるのではないでしょうか。