介護士こじらせ系

Bandcampとユマニチュードが気になる介護職の雑記です。

認知症予防としての将棋のススメ。

接待が上手く出来なくて利用者が避けてしまったのは僕の実力不足からでしかありませんが、別の利用者がある程度出来ると分かって将棋のお誘いをするようになったのは先月くらいからでしょうか。

 

うちの施設にある将棋盤は公文式の子ども向けの将棋盤で、一齣一齣にそれぞれの駒の動かし方が記されているものです。

NEW スタディ将棋 (リニューアル)

NEW スタディ将棋 (リニューアル)

 

 僕以外、今のデイサービスで将棋が出来るスタッフがいない(駒の動かし方が怪しく、この将棋セットでなら出来る、という人はいるみたい)ので、将棋を指すのは必然的に僕だけになります。下手の横好きですから仕事と思いつつ大歓迎なわけです。冒頭の利用者の相手も僕だけが行っていましたが、所謂接待将棋が上手くいかずたまに勝ってしまう事があり、拗ねた利用者が将棋を避けてしまっていました。

その利用者が来ない日にだけ、もう一人の利用者を将棋を指しているというわけです。

 

 

 

以前指していた利用者に比べて認知症の進んでいる方が相手なのですが、それでもいざ指してみるととても集中されていて、結構おしゃべりな方なのですが黙って将棋盤に向かわれます。たまに二歩とか、成りがまちまちになるのを指摘したりするくらいですかね。

人が変わったかのように集中され、黙々と、あるいは小さな声で「そうか」とか「違うか」とか言いながら将棋を指す姿を見ていると、単に娯楽の為に、とか集団で楽しむ為に、という枠を超えて将棋が介護現場で活きるんじゃないか、という気にさせられます。

 

 

「将棋 介護」とキーワード検索をしてみると出てくるのは、ポータルサイトで施設のPRをする文章の中に、あるいはタグづけの中に、将棋という単語が出てくるものが上位に出てきます。僕には将棋が出来る、というレベルの度合いがどの程度なのか分かりませんが、それなりに指せる高齢者が来ても大丈夫ですよ、という事なのでしょうか。

 

その次に多い印象なのが将棋が出来るボランティアの募集をする施設のページです。これは上記の逆で、利用者が指したくても指せない、というのを解決する為に動いているのでしょう。

 

介護用品、レクリエーション、リハビリ用具の一環としての将棋盤も出てきます。例えばこれ。

【販売】ビッグかんたん将棋|レクリエーション・福祉用具・介護用具の販売、レンタル 介護保険対応! ウェルサポート

 

サイズが大きく駒が掴みやすく、なおかつ動かし方まで表記されているという商品です。ちと高い気がするなあ。

 

後は介護現場での将棋にまつわるエピソードが出てきます。

アミーユブログ ~高齢者介護・住まいに関する情報満載☆~ : 【介護の現場から】将棋の師匠として~社会的役割の創造~

 

こちらの場合は利用者が将棋を教える、という形で社会的な役割を創り出す、という内容です。重要な事ですね。将棋が介護現場で活きている好例だと思います。

 こちらの例とは違う形で、将棋が介護現場で活きるのでは、と考えた理由を羅列していきます。

 

1.集中する

2.先を読んで組み立てる

3.複数の場所に注意を張り巡らす

4.回想法的利用

5. 指のリハビリ

 

思いついたものを大まかに挙げたものなので、もしかしたらもっと効果としてはあるかもしれません。いや、あるな。

 

1について。

既に述べているように、うちの利用者の場合ですが、黙々と将棋に取り組んでいました。こうして集中力を高める場を自然と作る事で、認知症以前の、物忘れに繋がる要素を遠ざける事が出来ます。

 

2について。

プロ棋士は局面局面で何十手もの先の展開を常に予測しながら将棋を指していきます。そこまでは到底いきませんが、それでも将棋においてはその場その場での短絡的な一手はかえって相手にチャンスを与える事になるなどする為、相手がどう動くかを予測しながら次の一手を考える事になります。例えば相手の王将を追い詰める時には、どう守りの駒を引き剥がすか、どう相手の王将の逃げ道を消していくかなど、先を読んだ一手が必須になります。

目的に向かって物事を順序立て、行動していく能力、問題解決能力、理論的組み立てに基づく行動をする能力など、認知症により低下していく能力を訓練する事に繋がるのではないでしょうか。

 

3について。

局面ごとに、相手の駒がどう動けるのかを見ながら一手一手指していかなければなりません。

 

ある場所に指せば王手になるように見えて、実は遠くにある角行が効いているからその手は有効ではない、とか、飛車が効いているからその列と行は指せない、など、一つの局面を狭く見ているだけでは将棋では勝てません。盤の様々な場所に、様々な駒の動きに注意する必要があります。

例えばこの記事にもありますが、

注意力の低下 | 認知症を知り、認知症と生きるe-65.net

人は刺激に対して一度に処理出来る量が決まっています。この量が減ってしまえば、それだけ周りの刺激に反応する事が出来なくなっていきます。

例えば道を歩いていても、足元しか注意出来なくなってしまって、前からの、上からの、横からの危険に反応出来なくなる可能性が増えるわけです。

たった9×9のマス目しかないと考えがちな将棋ですが、そんなふうに思えないほどに注意のアンテナを張り巡らせる必要があります。注意力を養う訓練として最適なのではないでしょうか。

 

4について。

おそらく将棋を自力で覚えたという人は皆無でしょう。誰か最初に将棋を教えた人、指南者がいるはずです。

かつて誰かと指していた、なんていう思い出話を引き出すには、一対一で指す将棋はうってつけです。

もし集中していて無視されたとしても、それはそれで集中力が高まっている証拠とも言えるのでオッケーだと思います。

 

5について。

将棋の駒って、結構小さいんですよね。そして、並べられた駒を掴むには更にその狭い隙間に指を入れ込む必要があります。隣の駒が動いたりしないように。

あるいは、駒が成った際には薄い駒をひっくり返さなければなりません。

この辺は、先ほど挙げた介護用品としての将棋盤の大きなものにおいても同じでしょう。多少サイズが変わったとしても同様の効果があると思います。

 

 

外せない注意点があるとしたら、前提として利用者が将棋を指せる人であるという事でしょう。一通りの説明だけですぐに出来るゲームではないので、真っさらな状態の利用者に将棋を勧めるのは酷です。

ただ逆に言えば、昔から知っている、という事がより大きな効果を引き出す要因になります。

将棋には定石、というものがあります。ざっくり言ってしまえば、定番の戦略といったところで、ある程度まで駒の動かし方が決まっているものです。かつて自分が使っていた定石を思い出しつつ、目の前の状況に応じて戦略を組み立てるという、二つの効果が同時に得られるのです。

決まった定石、とまではいかなくても、自分なりの戦術、序盤の組み立て方というのはある程度将棋を齧った方であればもっていると思うので、そういった点で将棋は認知症の方への予防などに有効な手段であると言えます。

これが例えばもっとシンプルなトランプの七並べなんかを同じ方がやると、ルールは将棋に比べて明らかにシンプルで、覚える事も出来ない事はないんですが、真っさらな分、戦略的なゲーム展開が出来なくて、場当たり的な事しか出来なくなるんです。過去の引き出しがあるかないかというのは同じゲームのようでもかなり開きがあります。

 

 

将棋将棋と将棋ばかりにクローズアップしましたが、これは少なくとも囲碁や麻雀、オセロなどでも同じような効果が得られると思います。(チェスもそうでしょうが、チェスが出来る高齢者が上記のゲームと同じようにいるかと言えばそうはいかないでしょう。)

 

 

過去の引き出しを元に目の前の勝負を行い、組み立てや注意を方々に張り巡らせ、集中して取り組む、という多くの要素を一度に訓練出来る将棋は認知症進行を予防、食い止めるには絶好の手段なのではないでしょうか。

 

 

※勝ち負けがかかるゲームであり、考え込む時間が場合によっては必要なものなので、負けて極度に拗ねたり怒ったり、あるいは焦れてイライラする人に対してはそれなりの対処をしなければ逆効果な気がします。

 

※うちにあるものや介護用品としての将棋盤には駒の動かし方が一つ一つに書かれていますが、多少慣れた方には逆に分かりにくいようです。大きく駒の名前が書いてある普通の駒の方がかえって親切でもあります。