介護士こじらせ系

Bandcampとユマニチュードが気になる介護職の雑記です。

安易な定年後の田舎暮らしは止めた方が良い、と介護的に思う。

昨日介護の地域性について記事を書いた時に思い出した事から書いていこうと思います。

 

地域に根ざした介護、というのであれば。 - 介護士こじらせ系

 

よく、都会でサラリーマンをしていた方が定年後、リタイア後は夫婦で田舎暮らしを、なんて聞きませんか?どこか地方の里山辺りに家を買ったり、あるいは借りたりして土いじりとかしながら暮らすっていうやつです。実際そういう漠然とした憧れをもつ人って結構いるし、そうした憧れをより具体化して提示する雑誌や実際に田舎暮らしを支援する自治体もあったりして。

 


田舎暮らしの本│宝島社の雑誌


田舎暮らし物件情報 『田舎ねっと.日本』


高知家で暮らす。|高知県での移住・田舎暮らし支援サイト

 

一部取り上げましたが、まだまだありますね。当然定年後の移住を考える人だけではなくて若者も対象になってますから、みんなどんだけ田舎に行きたいんだって思ったりもしますよ、地方に暮らしている身としては。

 

 

こういう定年後の田舎暮らしを考える時にいつも思い出すのが、うちの利用者のご近所の方の話です。

 

 

うちの施設、ちょっと遠くのエリアの利用者も少しだけ受け入れているんです。そのエリアというのがなかなかの距離がある場所でして、先に取り上げたような田舎暮らしがまさに実践されているような場所なんです。農業や林業がメイン、裏の川の水が一番美味しくて、夜になれば鹿や猿の鳴き声が聞こえる、みたいな。イノシシが子連れで歩いているのを見たことがある人もいるそうです。利用者も慣れたもので、猿やら鹿が鳴いていると「餌がないのかねえ」なんて同情してたりします。

僕の携帯はソフトバンクなんですが、電波入らなくて送迎時にトラブルなんて起きたらまず対処出来ません。買い物に行くには一山超えなきゃ行けません。

 

そんな場所です。

 

 

移住してくる方というのも少なからずいるそうで、土地柄でしょうか、よそ者を受け入れない、なんて事はなくて、地域のイベントごとなんかにはどんどん引き込んでいくそうです。

 

利用者から聞いたのは、そんなふうに移住してきた夫婦の話でした。

 

 

旦那さんの定年後、都市部からその場所の家を借りて引っ越してきたという、田舎暮らしに憧れる夫婦がいたそうです。

地域の祭りの役員やら担当なんかも、「こういう形で引き込んでくれるとありがたい、嬉しい」と歓迎していたそうで、比較的すぐに地域に馴染んでいったそうです。

 

そんな形で溶け込んでいった夫婦がいなくなったのはわずか数年後の事だったそうです。理由は介護でした。確か、夫婦のどちらかが病気になったのがきっかけだったと思います。

 

一軒の診療所があるだけで十分な医療が受けられる環境でなく、かつその後もその土地で生活していく事が難しいという事で都市部に住む息子さん夫婦のもとに戻って行かれたそうです。

 

 

こうやって定年後の暮らしを考えて新しい環境にチャレンジする事の出来る方って、元気だと思うんですよ。で、そんな元気な人たちを見ていれば周りだって頭ごなしに反対する事は出来ないんではないでしょうか。反対どころか理解を示す人だって当然いるでしょう。それには多分、前々からこうしたビジョンを公言していて、計画を立ててといったプロセスがきっちりしているというのもあるでしょう。先に取り上げたサイトのように、当人達の話だけでなく、形として裏打ちするものもあるわけですし。

 

 

でも介護を仕事として行っている人ならより分かってもらえると思いますが、人が要介護状態になるのって本当突然の事だとなんですよね。というか、病気なんてよほど身体からのSOSに耳を傾けていないとなかなか予兆を見出す事って出来ないと思います。

 

で、当然そうした田舎に介護施設が充実しているかといえば必ずしもそうではないでしょう。田舎暮らしを勧める情報源が、その情報の受け手が介護を受ける事まで想定して情報を発信するとは思えませんし、それは移住を計画している人にしても同じでしょう。先のチャレンジ、夢に向かうような生き生きとした人が、自分が衰えた時まで具体的に想定するかといえば、なかなか難しいのでは?と思います。

 

 

田舎暮らしはやめておけ、なんて言い方をするつもりは毛頭ありません。何よりもとからそこに住んでいる人に失礼だし、そうしたいという夢をもつ人の腰を折るなんて事はありません。

でもこうした話題を耳にするたびに、気持ちのどこかで「それってどうよ?」と思う気持ちがあるのは事実です。

 

何より、こうした移住を勧めるメディアなどの媒体にこそ、夢の裏に隠れた現実をしっかり発信して欲しい、と思います。田舎暮らしならではの悩み、みたいな情報発信だけでなくて、田舎に長く暮らし、自分の身体が衰えていく事で想定されるリスク、というものがあるという事を。